DESIGNER INTERVIEW #02
誰かのスタイルや正解に寄せるのではなく、
自分の感覚で選び取るということ。
——AKIRANAKA デザイナー 中章氏は、
そんな“曖昧だけれど確かな価値”に向き合いました。
日本というアイデンティティを起点に、
美意識や構造を分解し、再構築することで生まれた
今季のコレクション。
それは、日常の中で少しずつ完成していく、
“自分のために着る服”という提案です。
特に印象的だったのが、「AKARI」。
垂れ下がった和紙が空気の流れで
モビールのように動くんです。
提灯をベースにしながらも、
それは単なる照明ではなく、
光の彫刻として存在している。
これを見たときに、非常に日本っぽかった。
日本っぽいのに、僕が知ってる日本と違う。
日本が「新しく」されてたんですよ。
日本人って、
伝統を引き継いでいこうっていう考えに重きを置いて、
大きく変えることをあまりしてこなかった。
で、「やられた」と思ったんです。
「なぜ日本人がこれをやってこなかったんだろう」
って感じたんです。
マルジェラが足袋ブーツを作ったときに、
「なんで日本人が作らなかったのかな」
と思ったときと同じように。
イサムの家を見てから、
日本の作家はもっと日本の要素や美意識に
向き合うべきだなと思ったんです。

もう一つ大きかったのが、「無」という考え方です。
イサムの作品には、
空洞や余白といった“何もない部分”に価値を見出す感覚があって、
例えば「Energy Void(エナジー・ヴォイド)」という作品も、
形そのものではなく、その中の空間を彫刻している。
日本では、「無」がある、
いわゆる余白や間にも意味を見出す文化がありますが、
それを改めて強く意識させられました。
さらに、石の扱い方も特徴的で、
あえてコントロールしきらないことで生まれる、
自然な歪みや不均衡に美しさを見出している。
こうした要素を見ていく中で、
「“無”という概念」
「偶発性やコントロールしない美しさ」
「一つと多が同時に成立するバランス」
といった、日本的な思想を改めて捉え直すことができました。
―今季のアイテムにどのように表現されていますか?
このグラフィックは、
「無」という考え方から作っています。
無は“ない部分”なので、
まずはあえて抽象的な柄を色で描くところから始めました。
そこから今度は、
その柄をストライプ状に削っていくように消していったんです。
つまり、線を足すのではなく、
“抜くことでストライプを作る”という発想です。
完成した柄は、色ではなく色が存在しない部分によって構成されています。
“Empty stripe(エンプティ ストライプ)”という名前も、そういった背景からきています。

“Rachele shirt”は、
異なるものを組み合わせてバランスを取る、
という考え方から生まれました。
右と左であえて異なる要素を取り入れていて、
もしこれがシンメトリーだったら、
もっとミニマルでシンプルな印象になると思います。
ただ、そこにあえて違和感を加えることで、
新しいバランスをつくろうとしています。
機能的な意味があるわけではないんですが、
「美しさ」も機能のひとつだと捉えていて、
本来の形を少し崩しながら、
日本らしい感覚で整え直しています。

本来、ボタンは決まった位置に付けることで、
形がきれいに成立するように設計されているのを
あえてずらすことで、
少しイレギュラーなバランスを作っている
“Catalina dress”。
“一即多 多即一”の考え方のように、
バラバラに見える要素の中に新しい調和を見出したいと思ったんです。
実際に袖のディテールも左右で異なっていますが、
全体で見たときに一つの美しいシルエットとして成立するように設計しています。
また、トレンチやMA-1のような西洋由来のフォーマットではなく、日本的な感覚や思想をベースに服を構築することも意識しました。
そのうえで、日常で着てもらうことを前提に、
ドレッシーな見た目でもポケットを付けるなど、
実用性も大切にしています。
特別な場だけでなく、普段の生活の中で
自然に取り入れてほしいと思っています。

僕の中では、
ファッションとアートは同じところにあると思っています。
イサム・ノグチ の考えにも強く共感していて、
彼はアートを美術館の中だけに留めるのではなく、
生活の中で楽しむべきものだと語っていました。
実際に、照明や家具、庭の彫刻など、
日常空間の中に芸術を取り入れることで、
人の生活を豊かにしようとしていたんです。
その在り方は、自分の服づくりにもすごく近くて。
特別な場のためのドレスではなく、
日常の中で自然に着られるものとして、
生活にささやかな特別さを加えたいと考えています。
だからこそ、誰かになるための服ではなく、
自分自身の感覚で選び取り、
自分らしさを感じられる服を作りたい。
着る人が、
自分の生活の中で豊かさや彩りを見つけていく、
そんな存在でありたいと思っています。
その考え方をより直接的に表現しているのが、
“Line portrait T-shirt”です。
日々描いているノートのスケッチやメモの中から、
いくつかを選び、そのままプリントとして落とし込んでいます。
完成されたグラフィックではなく、
誰かの創作の途中にあるような線や思考を、
日常の中に取り入れる。
そういったプロセスごと共有することも、
生活に豊かさをもたらす一つの形だと思っています。

“Sesili jacket”は、
毎シーズン展開している定番のアイテムです。
ジャケットはラペルや上襟があることで、
硬く、フォーマルな印象になりがちなので、
あえてそれらを取り除いています。
その代わりに、
デコルテにかけてのカーブや大胆なカッティングで、
肌との境界に新しい表情を生み出しています。
生地と肌のテクスチャーが交わるラインをデザインとして捉え、
そのバランスで美しさを作っています。
ラペルがない分シンプルに見えますが、
ウエストのシェイプやカッティングによって、
しっかりとドレッシーな印象に仕上げています。
日常からオケージョンまで着られる、
現代的なジャケットとして提案しています。

誰かのためでも、正解のためでもなく、
自分の感覚で選び、纏うこと。
忙しい日々の中で後回しになりがちな、
そんな感覚に、
ふと立ち返らせてくれるのがAKIRANAKAの服だ。
AKIRANAKAの2026SSは、
“自分のために選ぶ美しさ”に、
静かに寄り添うコレクションだ。
※すべての商品は税込み価格で表記しています